「手彫り」印章(印鑑)の事実を徹底解説 知られざる実態からQ&Aまで

手彫り=機械不使用『とは限りません』

 はんこの「手彫り」ついて、当サイトは立ち上げ当初から警鐘を鳴らしており、店主の野田守拙も「「手彫り」をお求めの方にお伝えする『重要な事実』」というページを公開しております。
 私が過去に公開したこのページも「印鑑 手彫り 嘘」という検索で、かなり上位に表示されており、そこそこの方が見られているようなので、より印章の「手彫り」について理解していただける様、当ページの内容をより詳しく表記し、大幅にリニューアルして公開いたします。

 先に申しますが、当店店主「野田守拙」は熟練職人ですが、印章彫刻に彫刻機を使用しております。このページには「他店の手彫りじゃなく当店を選べ」という意図はありません。どちらかというと「手彫りに固執しすぎて失敗するお客様を減らしたい」という思いで情報公開しております。
 また、このページは情報提供により、ご自身である程度見極めをつけてもらうためのページです。他店に「手彫りの実態というページを見ましたが、おたくは本当に手彫りですが?」と質問するのはやめてください。そのお店の迷惑ですし、言質を取ることは本質的な解決にはなりません。
もっとも伝えたい重要なこと
 これはリニューアル前にも書いておりましたが、トップに表示されてる画像の通り
「手彫り」=「機械を使ってない」という意味ではありません
要はいくら彫刻機を使っても、部分的に手で彫れば、「手彫りであることは間違いない」という事です。
 ですので、「手彫り」と言いつつも、実は彫刻機を使っている、というケースがあります。
 「理論上ありえる」なんてもんじゃありません。結構見受けられます。

※「詐欺じゃないのか」「業界で基準はないのか」などのご質問については後述します。

実態はどうなのか
 気になる方は、一度「印鑑 手彫り」で検索してみてください。

「印鑑 手彫り」でgoogle検索
「印鑑 手彫り」でYahoo検索

 出てきたサイトの中に、「完全手彫り」と記載されたサイトが見受けられます。こういうサイトは偽りでない限り彫刻機は使ってないでしょう。

※「完全手彫り」「彫刻機使用」と2段階の彫り方・価格設定をされている店もあるので、サイトの商品すべてが完全手彫りではない場合もあります。

 その一方で、「手彫り仕上げ」と記載してるサイトもあると思いますが、そのサイトは、十中八九「彫刻機」を使用しています
 実は「手仕上げ」という言葉は、印章業界が「彫刻機使用なので『手彫り』とは違うけど、まともに仕上げしてない安物よりは良い品質のもの」と主張するために独自に定めた言葉になるのです。
 何故「手仕上げ」が「手彫り仕上げ」になっているのか、私にははっきりと分かりません。ただ、機械不使用であるなら前述の通り「完全手彫り」と謳えばいいので、彫刻機を使っていると考えるのが自然と言えます。

混乱を招く原因は
一言で言うなら、お客様と職人で認識が大きく異なるからでしょう。

「手彫り」に関する、売り手と買い手の認識の違い

買い手(お客様)

  • 「手彫り」は手間暇かけた良いもの   
  • 機械を使ったはんこは複製される 
  • 機械彫りのはんこは手抜き           
  • いいはんこを手っ取り早く見分けたい  
  • 「手彫り」の肩書があれば、手っ取り早く良いものと理解できる      

売り手(職人)

  • 技術があれば手彫りでも機械彫りでも良いもの
  • 手彫りでも機械彫りでも複製は可能
  • 道具をうまく使って効率よく良いものを彫るのが職人
  • 職人の出来の良さを手っ取り早く伝えたい
  • 品質の良さを手っ取り早く伝えるために「手彫り」「手仕上げ」と伝えたい

 上記のように、お客様とはんこ職人で大きな認識の違いがあり、その差が埋まらないのが原因だと、私は思っています。
お客様側からすると、売り手(職人)側の発想が不可解でしょうが、長くなるので後ほど解説いたします。

「手彫り」にも種類がある?
 「部分的に手で彫ったものでも『手彫り』」ということは、「どの部分を彫るか」で、いくつも種類が存在することになります。
 ここでは手彫りの種類について解説いたします。主に考えられる種類として6種類、下記の通り紹介いたします。

分類

字入れ

印章彫刻の字入れ工程

完成品となる印影を印面や紙・機械に書き込む

粗彫り

印章彫刻の粗彫り工程

字入れした印影原稿をもとに、粗く彫刻する

仕上げ等

印章彫刻の仕上げ工程

粗彫りの後さらに仕上げて鮮明な印影にする他、場合によって底さらえを行う


完全
手彫り
A1 熟練職人(手書き) 熟練職人(手彫り) 熟練職人(手仕上げ)
A2 熟練職人(手書き) 見習い(手彫り) 熟練職人(手仕上げ)
A3 見習い(手書き) 見習い(手彫り) 見習い(手仕上げ)

彫刻機
使用
B1 熟練職人(手書き) アナログ彫刻機 (熟練)職人(手仕上げ)
B2 (熟練)職人(手書き) ロボット彫刻機 (熟練)職人(手仕上げ・底さらえ)
B3 素人(既成文字) ロボット彫刻機 素人(底さらえのみ)

※表にはわかりやすく色分けしておりますが「手彫りのグレード」「品質の高さ」を分類するものではありません。

 上記の表を見たらわかりますが、実は彫刻機を全く使用しない「完全手彫り」でも、細かく3種類に分かれます

「A1」:全て熟練職人が手彫り彫刻
 最初の字入れから最後の仕上げまで、全て熟練職人が行うもので、出来は職人の熟練度合いによりますが「完全手彫り」に相応しいのは間違いありません。
「A2」:「粗彫り」は見習いが手彫り彫刻
手彫りの粗彫り工程 途中の工程である「粗彫り」を、弟子などの見習いにやらせる場合です。熟練職人が印面に書いた文字を見習いが彫り、粗彫りの出来が多少悪くても最後の仕上げで職人がカバーする、という方式で、これも「完全手彫り」に相応しいものです。また「弟子」「見習い」と言っても、独立直前の優秀な職人である場合もあります。
「A3」:見習い(実績の浅い職人)が全て手彫り彫刻
 最初から最後まで見習い、もしくは実績の浅い職人が彫刻するタイプです。
 完全手彫りに間違いはないですが、「一応彫ることができる」人たちによるものだと、出来が良くない場合があります。
 実際にこのような店舗を見たことはないのですが、「そうかも知れない」と感じる店はあります。
 完全手彫りの「A1」「A2」であれば、熟練職人が手掛けているので職人の紹介があるはずなのですが、その職人の名前記載が見当たらないサイトがあるのです。サイトに職人名のないところは「特定の人以外が彫っている」という事で、このA3に分類する可能性が高いです(特定の職人が彫っているかもしれませんし、不特定の職人でも出来の良い手彫りである場合もあります)。

次に、彫刻機を使用するタイプの分類です。

「B1」:職人がアナログ彫刻機で粗彫り
初期の光電式彫刻機 今はごく少数となりましたが、年季のある職人が「光電式」というアナログ彫刻機を用いて仕上げる方法です。透明フィルムに朱墨で印影を手書きし、機械が「フィルム」と「はんこ」をそれぞれ渦巻き状に回転しながら、フィルムの原稿に連動して針を上げ下げすることで彫ります。
 この光電式彫刻機は職人がちゃんと仕上げしないとまともな作品とならないものでしたが、当初はそれでも「粗彫りを任せている間、他のことができる」と重宝されました。また、「職人しか扱えない」こと、そして「見習い弟子に粗彫りさせているのと変わらない」という認識だったため、印章業界では「出彫りも彫刻機使用も同じ」という考えになっているのです。
「B2」:職人がロボット彫刻機を用いて字入れ・粗彫り、最後に底さらえ
手書き印影をスキャンしロボット彫刻 この分類は現在の職人の大半の彫刻方法に、追加で手を入れたものです。紙に手書きで印影を書き、それをコンピューターに取り込んで精度の高いロボット彫刻機に彫刻させ、その後手仕上げ彫刻します。

機械彫りを手彫りに見せる「底さらえ」 なお、最後(一番右)に記載の「底さらえ」とは、右写真の赤枠部分のように、最後にもう一度粗彫りと同じ工程を行って印面の底を手彫りに見せる工程です。「手彫り印章は彫って凹んだ部分の底が波うっている」というのが有名ですが、「底さらえ」を行う事で手彫りに見せることができます
 この「底さらえ」を行わない店舗は「手書きはんこ」「手仕上げ印章」などと書いている店が多いようです。
 手書き印影を意図的に粗く書いて仕上げを丁寧にする職人や、しっかりと手書きして最小限に仕上げるなど、職人によって手法は違いますが、しっかりした技量の職人が手掛けるのであれば「唯一無二」で立派な作品と言えます。

「B3」:素人ががロボット彫刻機を用いて字入れ・粗彫り、最後に底さらえ
コンピュータ内蔵のフォント文字でロボット彫刻 印章文字を書くことができない素人レベルの方が、コンピューターに内蔵する既成の印章文字を並べて加工し、彫刻したものです。右の画像を、同じ名前である「B2」の作品とよく見比べると、こちらの方が線が単調で、直角部分などが角ばっているのがわかると思います。
 コンピューター彫刻機は精度が高いので手仕上げする必要はなく、底さらえさえ行えば「手彫り」は嘘ではないし、一般の方には見分けがつきません。ただ既成フォントは種類が少なくクオリティも高くないので、しっかりした職人が見るとすぐに「彫刻機を使っているな」とわかります。また、同名のはんこを同じ彫刻機の別の店で彫った場合、似通った印影作品になる(字の並べ方や大きさのバランスで多少の違いはあるでしょうが)のもデメリットです。同じ職人が彫れば似通るのは仕方ないですが、全く異なる店でそうなってしまうのはある意味悲しいですよね…。
総括
 上記の説明を読まれたら気づかれたかもしれませんが、6種類の手彫りのタイプのうち、ほとんどが「熟練度合いで」とか、「出来が良い場合もあります」などと記載しています。
 結局は彫刻の出来・品質は手彫りかどうかというより、職人の技量で「印章の良し悪し」が決まるのです。
 はっきり申します。「手彫り」などの肩書は、手っ取り早く判別するものと見せかけて、売り手が手っ取り早く都合の良いものを売らせるための言葉にもなるのです。
 実際「A3」や「B3」の中には「手彫り」と謳いつつも品質の悪いものがあると言われ、当店のお客様から「過去に手彫りというサイトで印鑑を買いましたが、出来にがっかりしました」という声を何回か聞いております。
ここまでの長文をお読みいただいたのでしたら、是非とも肩書に頼らない本質の良さについて、少しでもご理解いただけると幸いです。
よくあるご質問に回答いたします
「手彫り」と謳ってるのに彫刻機を使ってるなんて、詐欺じゃないの?
 最初に申しました通り、彫刻の段階で手作業による彫刻を行っている以上は、詐欺とまでは言えないと思います。ただ当店としては誤解を招く表現は避けるべきと思っています。
何故、はんこ業界で「手彫り=機械不使用」と定めないの?
 印章業界(職人)の認識として「手彫りだろうが彫刻機を使おうが、職人の技が良ければ良いものができる」と考えているからです。また、完全手彫りでも途中の「粗彫り」工程は見習い弟子に彫らせることが多いので、「他に任せるという意味では人も機械も同じ」という認識もあるかもしれません。
彫刻機を使うと複製されるから止めるべきなのに、何故使い続けるの?
 確かに精密ロボット彫刻機を用いることで複製は可能ですが、それは理論上可能なだけであって、実際には行いません。大抵の職人は一度彫刻した印影データは削除しますし、保存していても「過去に同じ印影にのものがないか確認する」ためです。そもそも同じ印影で彫刻すると「他人の印章の複製」となり、法律で禁止されています

印影見本「首都」

 彫刻機を用いている当店でも、同名の印影は何度もおつくりしていますが、すべて異なるデザインです。例えば右にある「首都」という名前の印影(時間経過で変化します)は6種類ありますが、すべて異なるデザインになっております。
 むしろ、手彫りであったとしても、鮮明に捺印された印影があれば複製されてしまうので、複製についてはそちらを警戒すべきです。

彫刻機を使って彫るのって「手抜き」でずるいんじゃないの?
 効率よく良いものを作るのは職人の技量であり、手抜きでもずるくもありません
 そもそも「手間暇かける」という考えに大きな誤解があります。もし1万円の印章に1週間かけて彫るとした場合、本当に1週間彫り続けているなら、その間他の仕事ができなくなるので、月に4万ちょっとの売上しか立てられなくなります。印章職人が生きてゆくには基本的に1日10本程度彫刻する能力が必要で、その結果彫刻機を検討するのはごくごく自然なことだと言えます。
「手仕上げ」って謳いながら彫刻機を使うなんて、混乱を招くだけじゃない?
 お客様の立場からすれば、おっしゃる通りだと思います。実際、国から(確か消費者庁だったと思うのですが、資料が見当たりませんでした)そういった表現を止めるよう業界に通達が来た、という話を聞いた事があります。
 業界として、彫刻機使用の印章を「手彫り」と謳うのはさすがにやめたいが、安物の機械彫りと同一視されるのも避けたい、ということで、「手仕上げ」という言葉が生まれたのだと思います。
おたくの店(綺麗印影)は、手彫りの6分類のうちどれに当てはまるの?
 当店は彫刻機での粗彫りを行っており「手彫り」とは謳わないようにしておりますので、上記6分類には当てはまりません。近いものは「B2」(手書きで字入れして彫刻機で荒彫りし、手仕上げ)ですが、字入れは手書きではなく、店主の野田守拙が1から作成した数万の文字(同じ字体・同じ文字でも複数種類あります)を組み合わせて作っております。また最後の「底さらえ」も行っておりません。
「坂本龍馬」の実印見本 ご注文ごとにデザインを変更しておりますので、同名の場合デザインが似通ることはあっても同一にはなりません(右の「坂本龍馬」の印影は最も極端な例ですが)し、50年以上の経験で印影を作成しておりますので、品質はよいものと自負しております。
「手彫り」という肩書に頼らない見分け方ってあるの?
 確かに難しくはありますが、店舗にある作品見本を色々見比べることである程度の見分けはつくと考えております。一例として当店サイトの「貴方も出来る、『印章職人を見極める』方法」というページをご参考にしていただけたら幸いです。